
定年を迎え、あるいは子どもが巣立ち、ふと気づけば手に入れた「ひとり時間」。これは多くのシニアが直面する現代のリアリティです。長かった仕事や家族優先の暮らしを終え、いざ「ソロ活」を始めようとしても、「寂しい」「何をしていいかわからない」という不安が先に立つかもしれません。
しかし、この定年後の自由は、最高級の贅沢に変えるチャンスです。誰にも気兼ねしない、自分だけの人生を再起動するためのこの時間は、シニアライフにおける大きな課題である「心の孤立」や「無気力感」への最適解となります。人生後半の幸福度は、このひとり時間をどうデザインするか、というマインドセットと習慣にかかっているからです。
本記事では、この貴重な自由を最大限に楽しむための知恵を、エッセイストの岸本葉子氏の著書『60代、ひとりの時間を心ゆたかに暮らす』の提言などから学び、私の実体験を交えながら具体的な5つの習慣としてお伝えします。
1. 最高の贅沢「ひとり時間」を楽しむためのマインドセット

日本の高齢化が進む中、シニアの単身世帯の増加は避けられません。これは「寂しさ」という個人の感情の問題だけでなく、「どうすれば持続的に幸福なシニアライフを送れるか」という社会構造的な課題でもあります。

多くの方が抱えるのは、「この自由時間をどう活かせばいい?」「結局は寂しくなるのでは?」という疑問でしょう。
しかし、私はあえて言います。会社や家族のために生きた日々を終え、「自分のためだけの時間」が手に入った状態こそが、資本主義社会で得られる最高の贅沢です。なぜなら、これは食事、外出、趣味、すべてを自分のペースで自己決定できるという、人生における最大の自由だからです。
「孤独」は主体的な選択、「孤立」は断絶
多くの方が「ひとりになること=寂しい、不幸だ」と思い込みがちです。しかし、エッセイストの岸本葉子氏も提唱するように、孤独は、自分の内なる世界に徹底的に没頭し、好きなことを追求できる最高の機会です。
寂しさは誰の心にも生まれますが、大切なのは、その「孤独」な時間(主体的な選択)を、「孤立」した状態(社会からの断絶)にしないことです。
- 寂しさの正体: 寂しさは、誰かに自分の時間を使っていた時に急にその相手がいなくなったことで生まれる「時間の余白」のようなものです。
- 解決策: この余白に、夢中になれる何かを意図的に埋めることで、寂しさを感じる隙間はなくなります。趣味や学びなど、「没頭できる何か」を生活の軸とすることが、心の健康を守る第一歩です。
まずは「孤独=不幸」という思い込みを外し、最高の自由時間を手に入れたというマインドセットに切り替えることから始めましょう。
2. シニアのひとり時間を心ゆたかにする5つの習慣
読者の皆さんが「今日から何をすればいいか」、シニアのソロ活を充実させるための5つの習慣をまとめてご紹介します。
- 暮らしを「自分の心地よさ」基準で整える(老前整理と住まい)
- 誰にも見られないからこそ「やりたい放題」の趣味に没頭する
- 「ジャンル別」に仲間を作る浅く広い交流(人間関係のデザイン)
- 「ムリのない節約」と「価値のある贅沢」を両立させる(お金の自由)
- 毎日をフレッシュに保つ「好奇心」の徹底維持(エイジテックの活用)
ここからは、これらの習慣一つひとつを、具体的な事例を交えて深く解説していきます。
3. 【習慣1・2】ソロ活を支える「心と暮らし」の土台作り

習慣 1:暮らしを「自分の心地よさ」基準で整える(老前整理と住まい)
60代からの整理は、単なる「断捨離」ではありません。これは「自分のための空間を取り戻す」作業です。長年、夫婦や家族の暮らしに合わせていた家の中の物を、「他人の視線」でなく「自分のくつろぎ」を基準に厳選してみましょう。
- 老前整理は「ソロ活仕様へのリニューアル」: 岸本葉子氏も、家の中を「住みやすく整える」**ことが、心のゆたかさに直結すると提唱しています。私たちは、家族の暮らしを前提とした重い家電や多機能な道具を見直す最高のチャンスにいます。例えば、重くて使いづらい掃除機や、大人数向けの大きな鍋を、軽量でシンプルなソロ活仕様に思い切ってリニューアルしてみましょう。
- 効果: 物の量が減り、家事の負担が減ることで、物理的・精神的なゆとりが生まれます。このゆとりこそが、ひとり時間を楽しむための最も重要な資源です。残すのは「いつか使うかもしれない物」ではなく、「本当に使いたいもの」と「残したい思い出の品」だけにしましょう。
習慣 2:誰にも見られないからこそ「やりたい放題」の趣味に没頭する
「ソロ活」の醍醐味は、誰にもペースを乱されない自由があることです。この最高の贅沢を、趣味で最大限に享受しましょう。
1. 内向的ソロ活:自己探求と心の充実
誰にも邪魔されない時間を使って、じっくりと自分と向き合う活動です。
ソロ活の事例 | 魅力(なぜシニアソロ活に最適か) | 具体的な楽しみ方の深掘り |
美術館・博物館めぐり | 自分のペースで好きな作品やテーマを深く鑑賞できます。解説をじっくり読んだり、気に入った作品の前で長時間立ち止まったりしても、誰にも気兼ねする必要がありません。 | 地元の小さな美術館や企画展を巡るのがおすすめです。カフェスペースで静かに感想をメモしたり、関連書籍を読みながら余韻に浸る時間も贅沢なソロ活です。 |
映画・観劇鑑賞 | 好きなジャンルを、感動を共有するプレッシャーなしに楽しめます。平日昼間など、時間を気にせず行けるのが強みです。 | あえて昔の名作を再上映で鑑賞したり、話題の海外ドラマを一気に鑑賞したりと、過去の趣味を掘り起こすのにも最適です。 |
資格・検定の勉強 | 実益を兼ねたソロ活の代表です。今後の人生に役立つテーマに集中でき、結果が出ても出なくても、自分だけの成長を楽しめます。 | 簿記や終活アドバイザーなど、実生活に役立つ資格に挑戦することで、日々の生活にメリハリと目標が生まれます。 |
2. 外向的ソロ活:健康維持と新しい発見
適度な刺激と運動を取り入れ、心身のウェルネスを維持するための活動です。
ソロ活の事例 | 魅力(なぜシニアソロ活に最適か) | 具体的な楽しみ方の深掘り |
ウォーキング・登山(日帰り) | 健康維持の基本であり、お金もかかりません。地域の新しい発見や、季節の移り変わりを五感で感じられます。無理せず自分の体力に合わせたコースを選べます。 | 地図アプリで近所の知らない道を歩いてみたり、季節の花が咲く場所を目指したりと、**「小さな冒険」**を毎日に取り入れるのがおすすめです。 |
日帰り温泉・スーパー銭湯 | 温泉でじっくり温まり、リラックスする時間。ひとりでサウナと水風呂を往復し、**「整う」**感覚はまさに最高の贅沢なソロ活です。 | 平日の空いている時間を選び、露天風呂で景色を眺めながら静かに思考を巡らせる。自分だけの究極のリセット術です。 |
一人旅・グルメ(食べ歩き) | 誰にも気を遣わず、その土地のグルメや景色を堪能できます。旅行は「非日常」を体験することで、日常のストレスを解消する効果が非常に高いです。 | 地元で評判のカフェやレストランにふらりと入る**「一人外食」**も立派なソロ活です。美味しいものを自分だけで味わう贅沢を感じてみましょう。 |
【筆者コメント】 私も週末のバイクツーリングやソロキャンプで、誰にも邪魔されない「やりたい放題」の自由を享受しています。例えば、道中で急に気になる看板を見つけたら、予定を全て無視して寄り道できる。自分の好奇心に忠実にルートを決められるのが最高の贅沢です。ソロ活の最終目的は、自分の人生を「主役」として楽しむこと。一人旅はまさにその感覚を思い出させてくれます。
4. 【習慣3・4】心のウェルネスと「お金の自由」を確保する知恵

習慣 3:「ジャンル別」に仲間を作る浅く広い交流
定年後の寂しさの多くは、職場という「濃すぎる繋がり」が途切れることで生まれます。そこで、私たちは新しい「緩い繋がり」を意識的にデザインする必要があります。
- 利害関係のない繋がりを持つ: エッセイストの岸本氏も、「いくつになっても仲間は作れる」と提言し、俳句や運動を通じて新しいコミュニティを持っています。大切なのは、家族や親族のしがらみから離れた、利害関係がなく、居心地が良いという条件を満たすコミュニティを持つことです。
- 人間関係のリスク分散: 趣味のサークル、地域活動、またはオンラインサークルなど、複数の繋がりを持つことで、一つの人間関係が途切れても大丈夫なリスク分散になります。「孤立」を避けながら、自分のペースで「孤独」を楽しむための、心の保険です。
緩い繋がりを作る具体的なステップ
- 興味のあるコミュニティを検索する: 地元の生涯学習センター、市民講座、またはFacebookの趣味グループなど、まずは情報収集から始めましょう。
- 体験会に「一人で」参加する: 気軽な気持ちで一度参加してみて、「なんとなく居心地がいい」と感じる場所を見つけることが重要です。無理して馴染もうとしないことが、長続きの秘訣です。
- 役割を持たない: コミュニティ内でリーダーやまとめ役といった役割を負わないことで、負担のない「緩い」関係性を維持できます。
習慣 4:「ムリのない節約」と「価値のある贅沢」を両立させる
お金の不安は尽きませんが、すべてを切り詰める必要はありません。大切なのは、「お金との向き合い方」というマインドセットです。
- メリハリのある消費: 岸本氏は、節約を全てに適用するのではなく、「ムダを省く」ことと「好きなことには投資する」ことのメリハリが、心の満足度を高めることを強調しています。
- ソロ活への投資は「自己投資」: 節約して浮いた分のお金を、ソロ活(趣味、旅、学び)に回すことで、お金が「自由な時間と充実感」を生み出す好循環が生まれます。これは自分を大切にするための贅沢であり、心の満足度を高める「自己投資」だと捉えましょう。
節約と贅沢のバランス戦略
- 日々の「ムダ」を削る: 通信費の見直し、自炊の習慣化など、意識すれば削れる「ムダ」を徹底的に排除します。
- 「価値ある贅沢」を設定する: 例えば、「年に一度の海外一人旅」や「本格的なカメラ機材の購入」など、ソロ活の目標と結びついた具体的な贅沢を設定します。
- 「お金のかからないソロ活」を取り入れる: 図書館で一日過ごす、無料の美術館に行く、地域のボランティア活動に参加するなど、お金をかけなくても満足度の高い活動を増やします。
5. 【習慣5】未来への活力につながる習慣

習慣 5:毎日をフレッシュに保つ「好奇心」の徹底維持
「学び」や「挑戦」は、「心の体力」を維持するための最重要項目です。年齢を理由に諦めず、「〇年後にしてみたいこと」といった小さな目標を持ち続けることが、心の老いを防ぐとわかっています。
- 「遊び」としての挑戦: 「今から新しいことを始めても遅いのでは?」と思う必要はありません。スマートフォンやAIといった新しい技術は、孤独な「ソロ活」を豊かにする最高のツールです。
- エイジテックの活用: オンライン学習や動画編集を、「遊び感覚の脳トレ」として取り入れてみましょう。特に、孫とのコミュニケーションに役立つSNSの使い方や、趣味で撮影した写真・動画を編集するクリエイティブな作業は、脳を活性化させます。新しい技術に触れる「好奇心」が、心をフレッシュに保ち、未来への活力を生み出します。
【筆者コメント】 私も会社勤めの傍ら、新しい技術や知識の習得に時間を割いています。これは認知症予防になるだけでなく、私たちシニアが社会と繋がり続けるための「心のライフライン」になると感じています。
6. 【シニア ソロ活 Q&A】よくある疑問を徹底解消

Q1. 定年後、夫(妻)がいるのに「ソロ活」を始めてもいいでしょうか?
A. もちろんです。「シニア ソロ活」は、夫婦仲を良くするための戦略でもあります。定年後、四六時中一緒にいることで、かえってストレスが溜まる夫婦は少なくありません。
お互いが自分のひとり時間を持ち、好きなことに集中する時間を尊重しあうことで、夫婦の関係に「ちょうどいい距離感」が生まれます。ソロ活で得たリフレッシュや新しい話題は、帰宅後の会話を豊かにし、かえって相手への感謝の気持ちを深めてくれます。まずは「夫婦それぞれが週に半日、完全に自由な時間を持つ」といったルールから始めてみましょう。
Q2. 昔の友人に連絡を取るのが億劫ですが、どうすればいいですか?
A. 義務感で連絡する必要はありません。「ゆるい繋がり」は、負担にならないことが大前提です。
まずは、昔一緒に楽しんだ趣味を思い出してみましょう。その趣味を再開し、たまたまその話題が出たときに「そういえば、〇〇さんは元気かな?」と軽い気持ちでメッセージを送るのがおすすめです。すぐに昔の関係に戻ろうとせず、「近況報告をするだけの緩い繋がり」を維持するだけでも、心の孤立を防ぐ大きな力になります。
Q3. 「ソロ活」の緊急時対策として、最低限必要なことは何でしょうか?
A. 前提条件により回答は異なりますが、暮らしの知恵として回答します。
身元保証などの専門的な契約の前に、まずは「見える化」と「日常の工夫」が大切です。
- 近隣との挨拶: 毎日顔を合わせる程度の「挨拶だけの緩い繋がり」でも、異変に気付いてもらう確率が高まります。
- スマート家電の活用: 人感センサー付きの照明や、見守り機能付きの電気ケトルなど、AIや家電の力を借りることで、異常を検知する仕組みを負担なく作れます。
- 連絡先の整理: 緊急連絡先リスト(病院、友人、親族)を、冷蔵庫など目につきやすい場所に貼っておくなど、アナログな備えも重要です。
詳しくは下記の記事をあわせてお読みください。
Q4. 一人旅で寂しくならないか不安です。おすすめの場所はありますか?
A. 寂しさを感じるのは、「目的がないまま一人になったとき」です。一人旅は、「目的」を明確にすることが成功の鍵です。
- おすすめの旅: 美術館の多い街(例:金沢、直島)、御朱印集めができる寺社仏閣、名物の食べ歩きが充実している観光地(例:京都の錦市場、福岡の屋台)など、「移動中以外は手が離せない目的がある場所」を選びましょう。
- 筆者のヒント: 私がバイク旅をする際も、必ず「今日の温泉」と「今日の絶景」という目的を明確にします。旅の目的が明確であればあるほど、充実感が寂しさを上回ります。
Q5. 60代から始めても間に合う、費用対効果の高い趣味は何ですか?
A. 費用対効果(コストパフォーマンス)が高いのは、初期費用が低く、「誰かとゆるく繋がれる可能性」を秘めている活動です。
- 俳句・短歌: 始めるのに必要なのは紙とペンだけ。生涯学習センターや公民館で教室も多く、安価に新しいコミュニティに触れられます。
- ボランティア活動: 自分の得意な分野(PC操作、語学、運転など)を活かせるボランティアは、社会との接点を維持できるため、精神的な満足度が非常に高いです。
- 図書館の活用: 読書だけでなく、新聞の閲覧、PCの利用、無料の文化講座の受講など、地域によっては様々なサービスが受けられます。
7. 不安を解消するのは「習慣」という名の自己決定

シニアのソロ活の不安を解消するのは、誰かの保証や大金ではなく、「自分の人生を自分で決め、楽しむ」という日々の小さな習慣の積み重ねです。
岸本葉子氏の知恵からもわかるように、私たちの手に入れた誰にも気兼ねしない自由は、人生後半を豊かにデザインするための最高の道具です。
まずは、今日から「自分の心地よさ」を追求するために、暮らしの中の小さな整理や、新しい趣味への一歩といった「ソロ活」を始めてみませんか。この小さな行動が、あなたの未来の不安を解消し、心ゆたかなセカンドライフへと繋がります。